●タイにはどのくらいの山地民が住んでいるの?
2002年のチェンマイ山岳民族研究所の発表によると、総人口は86万6749人とされています。タイの県76のうち、20県に山地民が住んでいますが、そのほとんどは北部タイの山間に住んでいます。
情勢の不安定な国に住んでいる山地民は、難民となり比較的安全なタイへ移住しつつあり、その結果、タイ山地民の人口は、年々増加しています。
●タイにはどんな山地民が住んでいるの?
タイには10種以上の山地民が住んでいます。そのうち、人口の多い順にパガヨー(カレン)族、モン族、ラフ族、アカ族、ミエン(ヤオ)族、リス族、ルア族となっています。それぞれ、異なる文化・伝統を持っています。
●どんな宗教を信仰しているの?
伝統的な信仰には、‘アニミズム(精霊崇拝)’があります。精霊は、山、家、風、光などあらゆる物事に存在すると信じられ、村内や山の災いは精霊の怒りだとされています。この精霊の怒りを鎮めるために、自然に根ざした様々な儀式を行います。その他の伝統的な信仰として‘祖先霊崇拝’や‘神教’がありますが、現在では、キリスト教を信じる者や、タイ国教である仏教を信じる者も多くいます。
●どんな暮らしをしているの?
基本的には、山の自然に依存した自給自足の生活スタイルです。
衣:民族の哲学が織り込まれた、独自な民族衣装があります。以前は、母から子へと代々その手法が受け継がれていましたが、最近では民族衣装ではなく、Tシャツを着る者も多くみられます。
食:主食は米です。民族により、米の大きさや形は異なりますが、日本米に近い味の米を栽培する民族もいます。肉類も食べますが、おかずは野菜や豆類が中心です。
住:竹で造った高床式の家がほとんどです。各個人の部屋はなく、家族一緒に寝ます。一定の土地に定住するのではなく、何年かするとより住み良い土地へ移動します。
●どんな言葉を使っているの?
民族ごとにそれぞれ異なる言語を使用しています。漢字を用いる民族もありますが、ほとんどの民族は文字を持たず、文書による文化伝承はありません。キリスト教を信仰する村では、アルファベットを使った独自の文字を使っています。また、現在ほとんどの若者はタイ語を話すことができます。
●現在どんな問題を抱えているの?
タイ山岳地帯には、パガヨー(カレン)族、モン族、ラフ族、アカ族、ミエン(ヤオ)族、リス族、ルア族など10種以上の民族、およそ86万人が住んでいます。一部を除き、ここ100年から200年の間に、中国南部からラオスを通過し移住してきた人々、ミャンマーから移住してきた人々がほとんどで、独自の言語、宗教、高度な技術による手工芸品を持っています。そして、一部の民族を除き、彼らは、焼き畑農業に伴う5年から10数年ごとの集落移動を繰り返しながら、山地で独自の生活スタイルを保持してきました。
しかし、現在、彼らの生活や文化が急激に脅かされつつあります。
山地民による焼畑農業や、高地でのケシ栽培を恐れた政府は、森林保護法を定め、山林を一方的に国立公園や森林保護区に指定しました。彼らが長年住んでいた土地であっても、その法に指定された場合、一切の森林の伐採、焼畑農業が禁止され、強制移住をも強いられます。山の自然の中で暮らしていた彼らにとって、生活の基盤を取り上げられたことによる変化は、はかりしれません。
そして、低地への定住を余儀なくされた彼らに待ち受けていたものは、経済面での貧困と、心の貧困でした。
低地での農業方法を知らない彼らは、政府の奨励する換金作物を作りました。換金作物作りには、高価な化学肥料や危険な農薬を使わなければならず、それを買うため、多くのお金が必要になりました。また、限られた土地での連作は、土地を痩せさせ、収穫量が極端に落ちてしまったといったケースもあります。
そして何より、自給自足をしていた彼らが山から離れたことは、今まで山で取れていた食物を、お金を使い市場で買わなければならないということでした。低地で換金作物を作ることは、主食の米までも買わなければなりません。
上記に加え、貨幣経済が村々に侵入した要因に、世界の近代化とタイ経済の急速な発展があります。山地民の住む村も近代化の波にさらされ、更なる変化を強いられるようになったのです。村の若者の多くは、都会に憧れ、現金収入を求めてバンコクやチェンマイなどへ流れていきます。しかし、タイの教育を十分に受けていない彼らに待ちうけていたことは、山地民だということの不当な差別や、低賃金での過酷な労働でした。
若い女性たちは、悪徳業者に言葉巧みにだまされたり、教育を受けずとも簡単に多くのお金が稼げるという、売春の仕事に手を染めてしまいます。特に貧困の村では、わずかな借金の形に、両親が子供を売春宿に売り渡してしまう場合もあるのです。
都会での労働でエイズに感染し、村内にエイズが広がっている現状があります。
また、簡単に多くの現金が稼げるということで、彼らはアヘンを栽培し、アヘンの売人や運び屋になっています。そして、実際に吸引し中毒者になっている者は、老人から10代の子供まで様々です。数年前、The
Mirror Art Groupから最も近いアカ族の村で、57世帯のうち53世帯が麻薬に関わっていたという事例があります。
近年の警察による厳しい取締りにより、中毒者や売人の逮捕者も続出しています。しかし、両親が逮捕されると、その子供に親戚がいない場合、孤児になってしまうという問題も出てきています。
お金を稼がなくては生活できなくなってしまった彼らにとって、村単位で行われていた時間を費やす伝統的な儀式や、手間のかかる手工芸品、代々受け継がれてきた民族服などが、わずらわしいものになりつつあります。
これに加え、若者たちは、学校や町で差別を受け、山地民だということに劣等感を感じたり、自分自身を忌み嫌うようになってきています。そんな若者たちは、民族服や伝統的な儀式を嫌い、受け継ごうとはしません。
これらが意味していることは、山地民たちの文化・伝統が継承されず、タイという国の中で、少数の山地民文化が、多数のタイ文化に飲み込まれてしまうということです。
このように山地民は、タイ政府の不十分な開発政策や、近代化の影響により、経済的な貧困だけでなく、心の貧困まで引き起こしています。
コミュニティーが崩壊しかけている今、彼らに圧し掛かった複雑な問題を、自己解決することが難しいのが現実です。