タイには多くの少数民族が暮らしています。日本人にはリゾート地として有名なプーケット島やクラビーのある南タイには、海に浮かぶ船で暮らし、漁業を生業としながら海と共に生きるモーゲン族と呼ばれる人たちがいます。モーゲン族の居住域はインド洋アンダマン海を中心にビルマ・タイ国境をまたいでいます。
アンダマン海の美しい珊瑚礁や豊かに茂るマングローブの木の根に生息する魚や貝を採って暮らしてきた彼らに「国境」という概念は元々ありませんでした。今では観光地としてタイで最も有名な島であるプーケット島も観光地化されるずっと前から彼らモーゲン族の漁場だったのです。雄大で美しい自然と共に生き、広大なアンダマン海を自由に移動していることが本来の姿ではありますが、世界の近代化・グローバル化は彼らの住む海にも押し寄せています。
国境がひかれ、タイ・ビルマと国境をまたいで自由な漁を行うことができなくなりました。政府の統治を行いやすくするために、モーゲン族の定住化も進みました。しかし、今まで船を住まいとし自由に海を移動しながら暮らしてきた彼らに出生証明などの身分や出生を証明する書類を作成することは困難です。「移動」することが文化の一部でタイ国籍を取得することが困難だという点など、タイ北部に居住する山岳民族と共通する問題を抱えています。
インドネシア沖大津波が2004年の12月に発生したとき、モーゲン族は元来持っている豊富な海に対する知識により平地タイ人や観光客よりも早く安全なところに非難することができました。しかし、モーゲン族の家であり生活に必要な全てのものがそろった多くの船が流されました。被災し、怪我をして治療が必要でも国籍がない場合公的な保障や保険の対象外であり政府援助の対象にはなりません。
ミラー財団は現在ラノーン事務所を中心に、モーゲン族の支援活動を行っています。モーゲン族は自分の出生や身分を示す書類がない事が多いので、インタビューや調査を通して戸籍データの作成を行ったり、政府の役人が現地に赴いて書類の作成が円滑に行われるように仲介の役割も果たしています。これまでに、スリン島の89人のモーゲン族の国籍取得に成功しました。
しかし、89人というのは国籍を望むモーゲン族のほんの一部に過ぎません。 現在ミラー財団ラノーン事務所が力を入れて活動を行っているラノーン沖にあるラオ島についてご紹介します。
ラノーン県にあるラオ島ではモーゲン族の村民約212人(43世帯)のうち1名のみが国籍を取得しています。ラオ島の出身者であと2人国籍取得に成功したモーゲン族がいますが、現在ラオ島に居住していません。因みに同じ島に住むタイ人は国籍取得済みです。公共サービスも行き届いていないので村の衛生状態は最悪です。いくかのNGOもその村で活動を行いましたが、プロジェクトが終わると波が引いて行くかのごとく村から姿を消しました。どんなに素晴らしい活動でも継続的に行うことができなければ意味がありません。生活に根付いた問題(公衆衛生など)ほど継続的な活動が大きな効果をもたらすのです。
先ほどご説明したようにモーゲン族は基本的に海にある船で生活しています。かなり昔からラオ島の近海にはいて近くにあるチャーン島との間を行ったり来たりしながら生活しており、嵐のときなどに一時的に島に上陸していたようです。
約30年前位にはラオ島内に4、5軒の簡単なモーゲン族の家が建てられるようになりました。しかし、正式に陸の生活をはじめたわけではなく、やはり嵐のときなどに一時的に住む仮住まいの意味が強かったようです。ラノーンはビルマとの国境にとても近い地域で、特にラオ島は少し先に行けばもうビルマです。国境を越えて生活することが多かったことなどもあり、タイ政府役人による一斉国勢調査から漏れてしまったようです。あまりにもビルマに近かったので政府の役人はビルマから来た人たち・ビルマ人であると考えたそうです。
ミラー財団ラノーン事務所では、国籍取得に必要な書類作成のための調査、書類作成、提出、モーゲンの人たちが抱えている問題に関して政府に提言する活動を行っています。モーゲン族の人たちがより良い暮らしをおくることができるよう、彼ら自身の手によっていつか問題解決ができるように、大人や子ども向けに法律や自分の持つ権利を知るアクティビティも実施しています。村中には、貝殻やかつてはなかったビニールや瓶のごみが溢れかえっており危険な状態ですが、子どもたちは基本的に裸足で生活していて、サンダルを支給しますが1日か2日で脱ぎ捨ててしまいます。傷口から破傷風などの感染症に感染することもあります。サンダルを支給するだけでは解決にならないので、根気強く公衆衛生に関して指導を行っています。村にはトイレが1つしかありません。不衛生であることが原因で、皮膚病も流行しています。症状が深刻な場合もあります。ラオ島から病院には船に乗って20分くらいで着きます。しかし国籍を持っていないと保険が利かず、高額な医療費がかかりますので病院に気軽に行くことはできないというのが現状です。
僻地に居住している場合、電線をひくのが困難ですのでタイ国籍を持っている場合には政府からソーラー電気の装置を支給されています。ラオ島に居住しているタイ人は皆国籍があるのでソーラー電気を支給されています。モーゲン族の住む村にソーラー電気はありません。現在は自分たちで設置した車や船のバッテリーを使用し、電気を起こしているそうです。
ラオ島には小学校があります。小学校はモーゲン族の村がある島の反対側にある、タイ人の住む村の中にあります。モーゲン族の子どもたちは、小学校に船を使っていくか、島の中心にある森を通り2キロの道のりを通わなければなりません。ラオ島に住むモーゲンの子どもは大体4年生で小学校を辞めてしまいます。そして平均13、4歳で結婚して将来的には1家族で3人程度の子どもを持ちます。
ラオ島に住むモーゲン族の主な収入は、蟹・海老・魚をとって売る漁業が中心です。津波が発生するまでは豊富な海産資源に恵まれていましたが、津波のあとからは漁獲量が減りました。通常の漁業では不十分なので爆弾を使った漁をミャンマー領に侵入して行うこともあります。爆弾を使った漁はとても危険で時に手を失う人もいます。環境にも悪影響を与えます。さんご礁を壊し、海の生態系を破壊しかねません。違法にミャンマー領に侵入しているので、逮捕されることもあります。
また最近ではインド沖に行ってナマコを取る漁に参加することもあるそうです。タイ人のリーダーが、10人くらいのモーゲンを雇って漁に出ます。給料は歩合制で1つ取るごとに15B得ることができるそうです。漁は5日間です。ナマコ漁はとても危険なものです。ボンベとゴーグルだけの軽い装備で30メートルやそれ以上の海底に潜りナマコを探します。海底の水温は低いですがウェットスーツを着ることはありません。ボンベもきちんと整備されたものではありません。浮上もゆっくりと浮上しなければならないのですが急浮上により減圧症になることもあります。この漁によって命を落としたり重大な障がいを負うこともあります。また、この漁自体がインドの領海を侵犯する違法なものであっても彼らにその情報は伝えられず、インド政府による逮捕の危険もあります。実際に過去19人がインド政府によって逮捕されています。このように、何か問題が起きたとしても補償があるわけではありません。国籍のないモーケン族は、ここまで危険を冒さなければ現金収入を得ることが難しいのです。彼らが1つ15バーツ(50円程度)で取ったナマコが輸出先の中国のレストランでは1皿3つなまこが入って1000バーツ位(3500円程度)で提供されています。
ミラー財団ラノーン事務所のスタッフは、モーゲン族の人びとが幸せに生活できるよう今日も精力的に活動を行っています。活動にあたってはその島に行くまでの交通費やスタッフの人件費、機材やトイレ建設の費用等様々な経費が発生しています。
ミラー財団の国籍取得プロジェクトが円滑に活動を行うことができるよう、皆様の暖かいご支援をお待ちしています。 |